月間75万PVの人気ブログ「madameHのバラ色の人生」の著者、
マダムHこと佐藤治子さん。
今年9月には『普通の服を、はっとするほどキレイに着る』(宝島社)、
10月には『スーツケースの中身で旅は決まる~旅じたくとおみやげの愉しみ』(小石川書館)の2冊の本を出版し、
大人のおしゃれの大先輩として注目を集めています。
マダム流のおしゃれ、生き方のエッセンスを
窪田千紘がインタビューしました。



―― ブログ「madameHのバラ色の人生」を始められたのはいつ頃からですか?

5年前、震災のあとくらいです。
 
もともとは、私が始めた「REMODE(リモデ)」という、
みなさんのクローゼットに眠る価値あるお洋服をリメイクして蘇らせる仕事について、
知っていただくためでした。

リモデでは、お直ししたい服を持ってきていただいて
どのように直すか打ち合わせするのですが、一番大事なのはフィッティングです。
 
たとえば、右半身だけ、お洋服の肩や身幅や袖丈、袖幅などを、
その方のサイズに合わせてピン打ちする。
そうしてから左と比べてみると、違いが一目瞭然なんです。
皆さん「目から鱗だ」とおっしゃいますね。

そういう記事をのせていたら、出版社の方から、
「おしゃれに見えるのは、実はサイズ感が大事」ということを書いて欲しい
とお話をいただいて。

確かに、リモデでお直しの仕事をしていると、
お洋服はサイズ感で明らかに変わる、と実感します。
それに、巷で流行っている、大きくてユルい服へのアンチテーゼの意味もありました。

そこで、「着る人がいちばん美しく見えるのは、ジャストサイズの服」ということをテーマに、『普通の服を、はっとするほどキレイに着る』(宝島社)という本を書くことになったのです。
 





また、ブログでは、リモデに限らず、ジャンルにとらわれない記事をあげていったら、
徐々に読者さんが増えていきました。

中でも、旅行が好きなので「旅の記憶」というカテゴリーをつくって
現地からオンタイムで記事をあげるようになったら
「一緒に旅行に行っている感じがする」と
皆さん、喜んでくださって。

それと、年に2回くらい、海外のテキスタイル見本市を見るために出張をするのですが、
「海外出張には、どんなものを持っていくのですか?」と聞かれたことがきっかけで、
出張とバカンスの旅支度を載せるようにしたら、人気記事なったのです。

それを、また別の出版社の方が気に入ってくださって。
あるとき、私のブログの旅のカテゴリーの記事だけを全部コピーして持ってきて、
「これを本にしましょう」と。
それで、旅支度に関する本づくりが始まりました。
(『スーツケースの中身で旅は決まる』小石川書館)
 






著書『普通の服を、はっとするほどキレイに着る』のために
サイズについては調べ直し、アパレルの現状を再認識したという佐藤さん。
アパレル一筋のプロの目線が貫かれています。
 

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―― 私は、マダムの魅力は、「信頼できるセンスの良さ」だと思います。
最近、プチプラだけどセンスがいいという人が台頭してきたおかげで、
当たり前だけど、「センスがいい人」を信頼する流れができてきたように感じます。

それはあるかもしれないですね。

出版してからは、インタビューを受ける機会が増えたので
「私は来年、古希(70歳)になるのよ。そんな私に、なぜ、興味があるの?」
って、聞いてみたのです。

そうすると、
「身近に、ロールモデルがいない」と言うのです。
いまの30代、40代の人が、
「20年後に、どういう自分になるのかが分からない」と。

本を出版するときも
「69歳の佐藤さんだからこそ、良いのですよ」ということだったので、
あえて年齢も公表したのですが。
ああ、そういうことなのか、と納得しました。


―― マダムのような方が出ていらしたことで変わると思います。
ロールモデルを欲していますから、私たちは。

お洋服のことで言えば、
40代くらいまでは、まだ選択肢があっていいのだけれど、
おしゃれな50代、60代の方が着る服が、「いま」ないのです。

ビジネス的にはブルーオーシャンなので、
「なんで、やらないのだろう?」と思っています。
マダムHブランドを是非、作って欲しいという声も結構ありますが(笑)。

人気のあるセレクト系アパレルなども含め、
企画を担当しているのは、20代~30代中心で、せいぜい40代まで。
当然、50代、60代のファッションは、わからないし興味もない。
皆が、同じところを狙っているから、価格競争になってしまう。

日本はまだまだ男社会だから、企業の中では
女性にどんなに実力があっても“年を重ねることはダメなこと”なんです。
特にアパレル業界では、
「デザイナーも、50歳すぎたら仕事はない」という世界。
積み重ねたキャリアよりも年齢が問われる。

私は、例外的にこの年まで現役でデザイナー続けてこられたのですけれど、
一般的には、年を重ねることは、まだまだネガティブにとらえられている。
その意識が、今後は変わっていくといいのですけどね。

アパレル自体の意識が変わらないと、
これは無理だなぁ、と思いましたね。


―― アパレルで長くデザイナーをしていらしたということですが、
どういうブランドですか?

アクアスキュータムがいちばん最後で、
その前はイエーガーというイギリスのブランドのライセンス立ち上げをやりました。

アパレルのデザイナーは2年くらいで、ブランドをわたり歩くひとも多いですが
私は、長くて1つのブランドを担当すると5年~10年位ですね。
チーフデザイナー兼ディレクターの仕事をしていました。
新ブランドの立ち上げか、ブランドがうまく行かなくなると、必ず声がかかるというか……(笑)。

―― では、いい時代からの栄枯盛衰を全部、ご存知なのですね。

いちばんいい時代を知っていると思います。
DCブランドの全盛の時代も、その前のアパレルの黎明期も。
文字通り、高度成長期に、一緒に育ってきました。

「お洋服が売れて売れてしょうがない」という時代を体験していますので、
今の百貨店の衰退とかを見ると考えさせられますね。
世界に類を見ない、豊富な品揃えを誇る日本の一流百貨店でも、
ものを揃えただけでは売れる時代ではない。
本来の百貨店の魅力ってなに?これを再度考えて頂きたいです。

毎日更新している、私のブログで、「こういう素敵なものを見つけました」と
リサーチして記事に書くと、それがその日のうちに売れちゃうのです。
先日の記事では、紹介した某有名ブランドからお礼の電話がきましたし
最近では、自分がデザインしたアクアスキュータムの20万円あまりの高いコートが
ブログで紹介したら、2週間あまりでほぼ完売。ネットの影響力のスピード感に
自分でも驚いてます。


―― 私も「StyleSnap」が全世代合わせてもブログ1位なので、
売れるのはよくわかります。
やっぱり信用なんですよね。「マダムが紹介しているから間違いない」という。

そうですか・・たとえば旅行でも、私が記事にしたホテルやショップ、レストランなど
そのままのルートで全く同じ旅をしたという方も多いですよ(笑)


(その2に続きます)



インタビュー/窪田千紘
撮影/南都礼子
構成・文/藤岡信代



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